夏目漱石の「こころ」と島崎藤村の「並木」

 母は私が大学を卒業したのを、ちょうど嫁でも貰(もら)ったと同じ程度に、重く見ているらしかった。
「呼ばなくっても好(い)いが、呼ばないとまた何とかいうから」
 これは父の言葉であった。父は彼らの陰口を気にしていた。実際彼らはこんな場合に、自分たちの予期通りにならないと、すぐ何とかいいたがる人々であった。
「東京と違って田舎は蒼蠅(うるさ)いからね」
 父はこうもいった。
「お父さんの顔もあるんだから」と母がまた付け加えた。
 私は我(が)を張る訳にも行かなかった。どうでも二人の都合の好(い)いようにしたらと思い出した。
「つまり私のためなら、止(よ)して下さいというだけなんです。陰で何かいわれるのが厭(いや)だからというご主意(しゅい)なら、そりゃまた別です。あなたがたに不利益な事を私が強いて主張したって仕方がありません」
「そう理屈をいわれると困る」
 父は苦い顔をした。
「何もお前のためにするんじゃないとお父さんがおっしゃるんじゃないけれども、お前だって世間への義理ぐらいは知っているだろう」

 近頃相川の怠(なまけ)ることは会社内でも評判に成っている。一度弁当を腰に着けると、八年や九年位提(さ)げているのは造作も無い。齷齪(あくせく)とした生涯(しょうがい)を塵埃(ほこり)深い巷(ちまた)に送っているうちに、最早(もう)相川は四十近くなった。もともと会社などに埋(うずも)れているべき筈(はず)の人では無いが、年をとった母様(おふくろ)を養う為には、こういうところの椅子にも腰を掛けない訳にいかなかった。ここは会社と言っても、営業部、銀行部、それぞれあって、先(ま)ず官省(やくしょ)のような大組織。外国文書の飜訳(ほんやく)、それが彼の担当する日々(にちにち)の勤務(つとめ)であった。足を洗おう、早く――この思想(かんがえ)は近頃になって殊(こと)に烈(はげ)しく彼の胸中を往来する。その為に深夜(よふけ)までも思い耽(ふけ)る、朝も遅くなる、つい怠り勝に成るような仕末。彼は長い長い腰弁生活に飽き疲れて了った。全くこういうところに縛られていることが相川の気質に適(む)かないのであって、敢(あえ)て、自ら恣(ほしいまま)にするのでは無い、と心を知った同僚は弁護してくれる。「相川さん、遅刻届は活版摺(ずり)にしてお置きなすったら、奈何(いかが)です」などと、小癪(こしゃく)なことを吐(ぬか)す受付の小使までも、心の中では彼の貴い性質を尊敬して、普通の会社員と同じようには見ていない。

  
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